鏡のような人

 

 

ステージ上のその人はとても眩しかったです。

 

 

 

鏡のように輝く人だなと感じました。

 

人を美しいと思ったのはいつ以来でしよう。

 

 

 

 


均整がとれたその動作は 一挙一動が なんだか光のようにまっすぐで とてもまぶしく



周りに光線が幾重にも反射しては、屈折し、

永遠に続く光のようにひたすらに輝いていました。

 

 

 

 

鏡に映る光は、反射と屈折が幾重にも重なり、

境界を曖昧にし、世界を攪乱させ 欺瞞に満ちた現実への底知れぬ悲観などを当に消して、

非現実への甘い錯覚と死への明るい誘いをわたくしに。

 

 

 

なにひとつ 躊躇わない 

しかし 浮世への終わりの見えぬ反抗に疲れた憂いが柵として絡みついて 許さない。



甘い雰囲気をまとう手付きに 

わたくしは酔い痴れてしまい

 

貴方は、鏡の光となって美しいままに世界に残って  

いっそ、このまま、わたくしなど死んでしまえばと 願うのでした。

 

 

 

そのをんな

 
 
 
わたくしはいつでも、この世の総てと戦ってきた
 
 
わたくしと  自分と
 
わたくしと 男と
 
わたくしと こいびとと
 
わたくしと  この世
 
 
 
本当は 愛している  
否、愛して欲しい
 
だから をんなは けふも戦ふ
 
 
許し合いたくて 
 
この世の総てと 戦ふ
 
 
 
 
 
この世とたたかふをんな

食と指先



昔好きだった人を思い出したと、私の指先を見ていった。






記憶の中の女性は、とても若くて綺麗なのだろう。いつまでも、色あせず、彼女は年をとることはない。


もし、タイムスリップが出来たとして、彼女と私の手を比べてみたとしたら、本当はきっと大して似ていないのだと思う。

でも、その真実はたいして関係ない。


若い私の指先と、距離が、当時の文脈への記憶に踏み込む足がかりとなる。






少し昔の自分へ戻ること、それは決してかなわぬ、だから、人はいつまでも手放せずに、欲しがる。



若さとは甘い思い出だけではない、もう二度と手に入らない過去への幻想、残った酸いへの執着。


昔の記憶は、なによりも色を持った官能へと、やがて変わっていく。





肉体的な直接の官能よりも、記憶を絡めた疑似的な官能の刺激は、もっとも高尚さを押し付けてくるような、そんな粘着性がある。






男と女の食事というのは、どうしてこうも、色艶のある記憶やそれに関する感覚器官を刺激するのか。






食と指先。

繊細でいて、官能に大胆。


記憶はきっと、嘘をつく。

23

 

 

23歳がもうすぐ終わる。

 

 

キリが良いとは言えない齢、でも、24歳という数字を見ると、自分も妙齢になったと実感せざるを得ない。

 

 

昔は、自分がそんな年齢になるとも思わなかった。

 

 

もっと年の若い頃といえば、なんとなく現実味がない、漫画やドラマの主人公に無理やりあてはめたような感覚でしか、未来の自分を想像できなかった。

 

 

いざ、その年齢に差し掛かれば、世間でよく言われることだけれど、わたくしも例外なく、思い描いた大人になんてなれてなどいない。

 

 



今の私は  何に憶いを馳せ、未来を憶い、生きているのか。


この先も いまを生きていく私は  一体何を憶い生きているのだろうか。


永遠はなくとも、いまは確実に続いていく。




 

刹那的な美しさは、鮮烈で、華美で、永くは続かないゆえに、その一瞬にもっとも熱がある。

 

一度、甘い蜜の味を愉しむこと知った私は、再び同じ快楽を味わう瞬間の訪れをなによりも悦び、生きている実感としてこれを噛み締めてしまえば、この幸福は至極当然なのだと傲り、悦に浸る。

 



万人に起こるありきたりな平凡さとは対極にある非日常的な現実。


その人生の過剰さこそ、特別甘美なものなのだと、いつの間にか憶えてしまった。

それに伴う苦痛さえも即ち快楽として享受して厭わない、そんな人生の娯しみ方を知った。



この優越と背徳は、いつの間にか わたくしをこの世にとどまらせる罠となり、捕らえて離さない。

  

  

 

ただただ、ひたすらに中毒性のある蜜に身を浸し なにかを 少しずつ 狂わせながら

自縄自縛の蜘蛛の糸を 自らに絡ませ この世に 生きた途を残し

 

わたくしはこの生を保って この世を生きている様。

 

 


23歳と11ヶ月

なんとかそれなりに生きてきましたことへの証を以って 

24歳の自分の命に 期待を致します。